あいち国際女性映画祭2012ショートフィルム・アワード

あいち国際女性映画祭2012ショートフィルム・コンペティションは、9月5日、6日の両日にわたってノミネート作品10作品を上映し、グランプリに金谷真由美監督「ボトルシップ」、準グランプリに曹静監督「春節」と天野千尋監督「フィガロの告白」を選びました。

グランプリ受賞の金谷真由美監督は体調不良のため来場されず代理として主演の岩谷健司さんが賞状と副賞を受け取られました。

選考委員講評

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あいち国際女性映画祭2012ショートフィルム・アワード

★グランプリ★

ボトルシップ
監督:金谷真由美

写真は主演の岩谷健司さん

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あいち国際女性映画祭2012ショートフィルム・アワード

★準グランプリ★

春節
監督:曹静(ツァォ・チン)

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あいち国際女性映画祭2012ショートフィルム・アワード

★準グランプリ★

フィガロの告白
監督:天野千尋

選考委員
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野上照代(あいち国際女性映画祭2012運営委員会運営委員)
堀部俊仁(愛知県興行協会理事長)
斉藤綾子(明治学院大学文学部芸術学科教授)
木村博和(あいち男女共同参画財団理事長)
木全純治(あいち国際女性映画祭ディレクター)
加藤和己(あいち国際女性映画祭イベントディレクター)

講評
作品順序は順不同

木全純治(選考委員長)

ボトルシップ
この作品は映画の構成、技術力 、ラストの落ち、夫婦2人の会話など、非常によく練られて作られて、完成度が高い作品になっています。金谷監督は十分に長編を作る力があり、次回はぜひ長編に挑戦してもらいたい。ただ、今後、2時間のテレビドラマで終わるか、映画館で公開できる作品になるかが今後の課題になると思います。

ダンス・ダンス・ダンス・ダンス
ドキュメンタリーで最も大事なのは被写体です。今回、全盲の山本茂子さんという非常に魅力的で、活発な女性に迫っています。山本茂子さんがダンスにかける熱意もよく描かれてはいます。しかし、山本さんがダンスにかける熱情の背景が今一歩語られていない。また、同じようなシーンが多いので、もう少し簡潔にできたのではないかと思います。評価も非常に高かった作品です。

櫻本箒製作所
簡潔の中にも味わいの深い作品ではありますが、アニメーションの持つ醍醐味というか、もう少し意外性があってもよかったのではないでしょうか。

つきのひかり
撮影方法、全体の構成力にもまだまだ検討の余地がある作品です。一番の欠点は時間の経過がよく分からない。服装の面、天気などを考慮して時間経過をしっかり描き、構成しなければいけない。

フィガロの告白
非常に完成度の高い作品になっております。若者たち、中学生の性への好奇心が自然体の姿で非常によく描かれています。ラストの落ちも素晴らしく、モーツアルトの既成の曲を非常に上手く使いながら躍動感のある作品に仕上がっています。

仇討ち
この作品は中学2年生が年上のおばさんに憧れるというのを描いています。この中学2年生がおばさんへの憧れはわかるのですが、おばさんから彼への性的側面も、もう一歩描き方があっても良かったのではないか。それがないと仇討ちをするに至るまでの動機に衝撃性がない点が難点といえる。

口腔盗聴器
主人公が異色でインパクトのある登場人物だと思います。彼が歯の中に盗聴器を仕込むという表現の意外性もよく表れている。ただこの作品はラストに難点があります。ラストの処理に意味不明な点があり、非常に大事なところが意味不明ではいけない。多くの好評はあったのですが、ラストの大事なところがマイナスになっています。

春節
中国からの作品です。主人公が新築のマンションを持ちたいと焦る気持ち、恋人から裏切られ、そこの社長に対して動揺する。中国の現代社会における庶民の願望と社会性がよく描かれています。彼女と社長がワインを飲む長回しも効果的。ラストの故郷に帰るシーンもうまい。この作品は、技術力、テーマ性においてかなり完成度の高い作品になっています。

戸川昌子 大いなるディーバ その軌跡
被写体選びが上手いと思います。戸川昌子というシャンソン歌手であり、パブを営む彼女の夜の姿、彼女の持つ魔力的な姿がよく描かれてはいます。ただ、アップの多い構成で少々全体の余韻がなかったのではないか。よくはできているのですが、少々長く感じられる作品になっています。

お願い!100回死んでくれ
女性監督では珍しいバカバカしいコメディタッチで描いた作品です。技術的にはまだまだ稚拙な面があり、十分に彼女の思いが描かれてはいないのですが、このようなジャンルに女性監督がチャレンジすることも重要です。今後に期待したいと思います。

斉藤綾子

ボトルシップ
結婚した男女の差について、うまく描いている。ただ、男女の違いが、現実的な女、男のロマンという感じで少し典型的な感じがしてもったいなかった もう少し「女」についても何か展開があればもっとおもしろかったと思う

口腔盗聴器
男のなんとも倒錯した欲望が描かれていて興味深かった。言葉ではなく映像で少しずつ積み上げていく展開はとてもよかったと思う。ただ、母とうりふたつの娘に対する隠された気持ちが抑えきれない衝動となって現れるというひとつの動機表現は弱かった。男の狂気がもう少し現れていたらもっとインパクトが高くなったと思うので少し残念。

春節
変わり行く大都市北京で、小さな幸せを願う女に、その女の気持ちをもてあそぶ男。設定としては平凡だが、女の気持ちに寄り添う形の作り方に共感した。最後の酒に酔うシーンがよかった

戸川昌子 大いなるディーバ その軌跡
戸川昌子を追ったドキュメンタリーだが、映画としてもう少し工夫があるとよかった。基本的に戸川が話したり、歌ったりする場名が固定で撮影されるだけなので、飽きてしまう。

お願い!100回死んでくれ
アイデアがおかしい。映像も個性的。ただ、その個性的なわりに少しオリジナリティという感じがなかったのが残念。何か、もうひとつスパイスか、抜けるところがあれば、飛躍的に魅力が出てくるようにも思える。11分という中でパワー満載なのは評価したい

仇討ち
残念ながら、いまひとつ物語の設定や展開に入りきれなかった。年上の女性にあこがれる男の子というのは少し凡庸では。

ダンス・ダンス・ダンス・ダンス
山本茂子さんに圧倒された。作り手も山本さんに圧倒されている感じがしたが、だが、全体としてはただ、この人すごいですよというつくりにはしない構成は好感をもった。もう少しドキュメンタリーとして、映像表現自体に工夫があったらよかった。

櫻本箒製作所
丁寧なクレイメーション 老夫婦の落ち着いた日常 妻の病気が短いシーンで構築されていく積み重ねが効果的である。全体の静けさと色の繊細さを評価したい

つきのひかり
学校の怪談風の話で、少年の母の思い出と少女の悲劇が重ねあわされていくところを作り手は描きたかったのだろうと思うが、少し話の展開が予想できて途中で興味が減少してしまった。何かひねりがほしかった

フィガロの告白
少年たちの自然な演技を引き出せた点をまず評価したい。短編でありながら、展開もテンポよく、4人の少年の個性もそれぞれ異なっていて、それがうまい。カメラワークも少年たちの動きや表情をうまく捉えている。ヨネの空想シーンも効果的で、さらに音楽がリズムを生んで心地よい。ラスト、カメラの角度でエレベーターが出ていたのでそれですべて予想してしまったので、そこが残念。中学生から高校生になろうとする男の子たちのほろ苦い青春の一ページというテーマ自体は、ハリウッド映画でもよくあるテーマだが、少年たちの表情をこれだけ生き生きと映画的に捉えられて、思わず懐かしい思いを抱いた。

加藤和己

仇討ち
剣道着を着、竹刀を持って電車に乗る少年。実際にそんな風景に出会ったら、つい目をとめてしまいそうな魅力的なシーンで始まる。この少年の演技が実に爽やかで好感が持てる。
物語は、中学生の少年が友人の叔母と再会し、幼い頃の初恋に似た感情がよみがえり、その思いがさらに深まっていく思春期の心のゆらぎを描いている。これだけならごくありふれたテーマであり、さほど目新しさはない。だがこの作品はある一点において輝きを放つ。少年が憧れの女性の恋の破綻を知った時、彼は何の迷いもなく相手の男性への仇討ち、それも剣道での決闘を申し込むというありそうであり得ない、少年の一途さと言えばそう言えなくもない、突拍子もない行動をとるのである。少年の寡黙ではあるが心の強いところや思いの深さを嫌みなく爽やかに浮かび上がらせている点において評価できる。
ただ、このワンシーンがなければ、果たしてこの作品がどういう評価を受けるのかやや心配なところだ。

口腔盗聴器
映画的という意味においては相当にレベルが高い。歯科医師のあぶなさや女子高生のとらえどころのなさが逆光や室内照明の荒い映像をうまく使い見事に表現されている。怪しげなタイトル、そしてやや(かなりか?)あぶない内容、そうした要素が良くも悪くも映画の魅力となり得るものだと思い知らされる。盗聴器を歯に仕込むシーンなどを見ると画に緊張感を生み出す手法もよく心得ている。思わず引いてしまうとはいえ女子高生の歯の詰め物をなめるシーンや母親のカットに悪くなりかけたバナナをかぶせたりするきわどい演出、極めつけが女子高生の治療のシーンにまるでラブストーリーのようなピアノ曲を流したりする、そうした観客を操る術も巧みだ。ただひとつ、ラストシーンが分からない。オチなど必要はないが、もうひと工夫あってもよかった。
見るたびに新しい発見がある作品であり、私はこの作品をグランプリに推した。是非とも、いつか女性監督としてはあまり例のない禁断の純愛物語を長編で撮ってほしいと思う。

春節
海外から応募のあった5作品のうち、中国からの本作がノミネートされた。制作技術においては中国の2作品は共に基本がしっかりしており安心して見ていられる。15分という短い時間がしっかり構成されており、映画としてほぼ完璧に成立している。
内容は中国における若者たち、と言っていいのかどうか、30歳前後の若者たちのリアルな生き様を描いているようだ。もちろん「ようだ」というのは実際には知らないという意味であり、作品にはとても現実感があり、スクリーンの中の人物たちにも親近感が持てる。特に後半の5分におよぶ固定カメラによる長回しはこの作品を特徴づけており、市井の人々を捉える目はジャ・ジャンクーを想起させる。この作品もグランプリに値するレベルである。
日本でも数年前からアラサーという言葉が使われるようになったが、どうやら中国でも30歳前後の女性には結婚や出産という社会的プレッシャーがかかるようだ。

戸川昌子 大いなるディーバ その軌跡
この作品は、冒頭に「34年ぶりのコンサート(略)の舞台裏と(略)インタビューを紡いだ記録です」とあるようにそれ以上でもそれ以下でもない。この作品に興味を持つか持たないかはイコール戸川昌子を知っているか知らないか、あるいは興味を持つか持たないかで分かれる。その意味では、導入部分に説明的なナレーションや前置きを入れず戸川昌子その人を見せてくれることには好感が持てる。
ドキュメンタリーとは何かの問いに答は様々あるだろうが、単なる記録ではないと考えれば、果たしてこの作品が被写体である戸川昌子その人に迫れているかと言えばそれには大いに疑問が残る。つまりここにいる戸川昌子は、たとえば「青い部屋」へ飲みに行けば、あるいはそのコンサートに行けば、誰にでも見ることの出来る表の顔でしかない。

お願い!100回死んでくれ
この映画祭のノミネート作品としてはやや異質と言えなくもない。真正面からではなく、かなり斜めから男と女の関係を描こうとしているようだ。登場人物たちのおバカなところも悪くはないし、過激なセリフや極彩色を使ったノンリアルな映像も妥協なくやっているところがいい。ただ、それだけでは長くは持たない。もうひとつ展開がないのが残念だ。
また、一見どこかに突き抜けているようにもみえるが、女が去っていくところなど相当に女性の母性を匂わしているし、一歩下がってみれば、男と女の関係?あるいは性の問題?いったい何が問題なのかは見えてこない。

ボトルシップ
若者の恋愛を描いた応募作品が多い中、夫婦間の大人関係を描いた唯一の作品といっていい。夫の脱日常願望がボトルシップにたとえられ、ゆったりとしたリズムで物語は進んでいく。妻に内緒で始めたバーのアルバイトは、やがて夫婦関係の破綻などを暗示させつつ徐々に静かなる緊張感を持ち始める。しかし、そんなワイドショー的な興味は見事に裏切られ、妻の意外な行動で物語の次元は一瞬にして変わる。そしてボトルシップがボトルの中でしか生きられないことを嫌みなく静かに語りかけてくる。
特別新鮮とは言えないテーマをしっかりとした構成と演出でうまくまとめている。

ダンス・ダンス・ダンス・ダンス
ドラマにおいても俳優の存在感が作品の出来を左右することは多いが、ドキュメンタリーではよりその傾向は強く、第一義に被写体が魅力的であるかどうか、あるいは魅力的に見せるかどうかが作品の出来を決めるといっても過言ではない。その意味ではこの作品の山本茂子さんは実にパワフルでポジティブで人を引きつける。そのキャラクターもあってか、カメラが実に自然に被写体に寄り添っているように感じる。監督と山本さんの信頼関係なのだろう。それはドキュメンタリーを撮る上で最も重要なことである。
撮影技術や音声にやや問題はあるが、それを補ってあまりあるパワーを感じる。

櫻本箒製作所
ノミネート作品唯一のアニメーションである。紙や布など自然素材を使ったパペットアニメーションだが、とにかくそのディテールにこだわったつくりに驚かされる。人形は当然だが、家、箒、作業道具など全てに妥協がなく、実写とはまた違ったリアリティにあふれている。
物語やテーマもアニメーションとしては珍しい部類に入ると思うが、それだけに作者の思いが強く感じられ、ゆれる箒のラストシーンには思わず涙がこぼれる。

つきのひかり
この作品の良さは様々な要素がある一定のリズムにしっくりとおさまっていることである。俳優たちの動き、音楽、そしてカメラワーク、それらがとてもバランスよくひとつの総合体としてまとまっている。決して高くはないが緩やかな裾野を持った美しい山のように感じられ、ゆったりと見させてくれる。時折はさまれる短いカットが活きている。床面から少年の足元をとらえたショット、譜面をとらえたカット、揺れるカーテンなどなど、ありきたりと言えば言えなくもないが、それが意外に難しい。カット割りやアングルも適切だ。
ただ、物語の核心である少年の過去との邂逅がうまく捉えられているとは言い難い。回想シーンを入れることでお茶を濁している感がぬぐえない。
監督は大学生とのこと、将来が楽しみだ。

フィガロの告白
第一印象は、中学生たちによくもこれだけ自然体でカメラに向かわせたものだと驚かされる。中学生の日常を撮ったドキュメンタリータッチの映像にも見える。若者のマジトークが楽しい作品だ。
と、思わせるだけの力がこの監督にはある。もちろん少年達は俳優だろうし、年齢も中学生というわけではないと思う。しかし、俳優とはいえこれだけ自然に撮れるのは、それだけ俳優との距離の取り方がうまい、俳優たちをうまくのせる、つまり演出力があるということだ。オチも見事だ。制作技術も高い。
ただ、なぜ「フィガロ」なのかやや釈然としないところがある。「フィガロの結婚」から発想したのか、あるいはその序曲の躍動感を使いたかったのか。全体にうまさが際立ち、それだけで完結してしまっていないか懸念が残る。